電動車の普及が進むにつれ、オートリース会社では、契約終了時の車両価値をあらかじめ見込む「残価設定」の難しさが経営課題として重みを増しています。
公益社団法人リース事業協会・自動車リース委員会が2023年4月に公表した調査研究報告書によると、自動車リース委員会に加盟する会社(13社)を対象にした調査で、EVのリースに関する課題として「残価設定」を挙げた割合は61.5%に上りました。「充電インフラ」(84.6%)に次ぐ高さで、「メインテナンス・リース」「車両価格が高額」(いずれも53.8%)を上回っています。本記事では、この調査結果と国内の販売動向を手がかりに、EV残価リスクの構造と対応の方向性を整理します。
EVのリース各社の6割以上が、残価設定を課題に挙げている
同報告書は、EVのリースを普及促進していく上での課題(複数回答)を次のように整理しています。
| 課題 | 回答割合 |
|---|---|
| 充電インフラ | 84.6% |
| 残価設定 | 61.5% |
| メインテナンス・リース | 53.8% |
| 車両価格が高額 | 53.8% |
このうち「充電インフラ」「車両価格が高額」は、リース・取得の形態にかかわらず生じる課題です。一方で「残価設定」と「メインテナンス・リース」は、報告書が「リース固有の課題」として区分しています。契約終了時に車両を引き取り、再販や次の契約につなげるリース会社ほど、この課題を直接に引き受けることになります。
中古車市場の未成熟さと技術進歩の速さが、価格の目安を難しくする
自動車のリースでは、契約時に残存価格を設定した「オペレーティング・リース」が広く行われています。しかし同報告書は、EVについて次の2点を課題として指摘しています。
- EVは中古市場がまだ形成されていないこと
- 技術進歩が速く、中古市場価値がガソリン車等に比べて低い傾向にあること
また、車載バッテリーの二次利用(劣化後の蓄電用途への転用など)の動きはあるものの、二次利用価値に基づく残存価格を設定できる段階には至っていない、とも指摘されています。ガソリン車で培われてきた残価査定のノウハウが、EVにはそのまま当てはまりにくい構造です。
新車販売の伸びに、残価データの蓄積が追いついていない
一般社団法人次世代自動車振興センター「EV等販売台数調査」(同報告書に引用)によると、EVの新車販売台数は2016年度の13,817台から2021年度に25,753台へと増加しました。ただし2021年度の新車販売台数445万台全体に占める比率は0.6%にとどまります。
同報告書はさらに、自動車リース委員会に加盟する会員会社(子会社の自動車リース専業会社を含む51社)で、2022年3月末時点のEVリース車保有台数を6,103台と集計しています。リース先の内訳は「大企業」54.8%、「中小企業」45.2%、「官公庁」7.2%、「個人」2.6%で、コストの高さから大企業での導入が先行している様子がうかがえます。
直近では普及ペースがさらに上がっています。一般社団法人日本自動車会議所が2026年5月に伝えたところでは、2026年4月のEV販売台数(登録車・軽自動車の合計)は前年同月比2.6倍の7,545台、乗用車に占めるEV比率は前年同月から1.4ポイント上昇の2.4%でした(出典は日本自動車販売協会連合会・全国軽自動車協会連合会のデータ)。新車の台数が積み上がる一方で、契約満了時の実売価格という「残価の実績データ」は、まだそれに見合うだけ蓄積されていません。政府も「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021年6月、経済産業省等)で2035年までに乗用車新車販売の電動車比率100%を目指す方針を示しており、この差は今後さらに広がりうる論点です。
残価情報の蓄積と柔軟な契約設計が、対応の方向性になる
同報告書が示す課題解決の取組の方向性は、次の4点です。
- 国内における循環モデル(下取り・再販・再利用の流れ)の検討
- 残存価格に関する情報の蓄積
- バッテリーの二次使用の促進
- バッテリーの中古価格を算出するための指標設定
あわせて、ランニングコストまで含めた総所有コスト(TCO)を前提にした提案や、契約期間・利用形態を柔軟に設計する動きも広がっています。サブスクリプションやカーシェアなど、所有を前提としないモビリティサービス向けの契約形態への対応は、残価を長期で固定しにくいEVとの相性という観点でも注目されています。
契約・車両・会計情報をつなぐ体制が、残価管理の土台になる
残価リスクに向き合う土台になるのは、契約情報・車両の状態・会計処理をつなぎ、可視化しておく体制です。2027年4月以後に開始する事業年度から適用される新リース会計基準(企業会計基準第34号)では、借手のリースが原則オンバランス化されるため、契約・資産情報の整備は会計対応の観点からも重要度を増します。
こうした課題に対して、自動車ファイナンス・リース業務向けプラットフォームSOFICO Miles Enterpriseでは、契約・車両・会計の情報をつなぎ、残価管理に必要な情報を可視化するという考え方を取っています。EVの残価データが業界全体でまだ蓄積途上にある今だからこそ、自社の契約・車両情報をどこまで一元的に把握できているかを点検しておくことが、次の一手になります。
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